はじめまして、AAのさとうです。
某鹿大学の大学院で、夏目漱石と戯れております。バチバチの文学部ですので、担当科目は現代文・古文・漢文・ちょこっと英語でございます。
それに関連して、ここでは受験生の皆さんの“勉強”に対するモチベーションが少しでも上がることを期待しつつ、「文学」についてお話ししようかと思います。
漱石、といえばなんでしょうか。『三四郎』『それから』『門』の前期三部作、『彼岸過迄』『行人』『こころ』の後期三部作は、文学史では必ず押さえるべきポイントとして、受験生の皆さんを悩ませる種の一つかもしれません。
そんな「文豪」と名高い漱石ですが、彼の作品は主に明治大正期に書かれたので、いわゆる“近代文学”に属します。
ちなみに文学史においては江戸期までが近世、鎌倉室町あたりが中世、平安が中古、奈良時代あたりが上代、なんていう括りもありますので(諸説ありますが)、覚えておくとどこかで使えるかもしれません。
さて、実は漱石は官費で英国留学をしておりました。ではそこで文学だけを学んだのかというと、そうではありません。彼の留学中の購入書物には、科学や心理学に関する書物が大量にありました。
漱石の『文学論』という、一見文系のお手本のようなタイトルの書物がございます。けれどもその実、科学、数学、歴史、心理学等々……それらを踏まえての「文学とは何か」という大風呂敷を広げた、現代にも通用する最高傑作なのですよ。
つまり、「文学」を制するには「文学作品」を読んでいるだけではいけないわけです。
「文学」というものは、科学や数学を扱えばSFになるし(それも、その時代の最新の科学を基礎にしていて、決して奇想天外な“空想科学”ばかりではないのですよ)、歴史を扱えば歴史小説に(これを中国的には正史に対して“稗史”と呼んだりもします。三国志に対する三国志演義みたいなものです)、小説に書かれる人間同士の関わりの根底には心理学だって存在します。
フィクション・ノンフィクションの線引きだって曖昧で、「書いた」時点でそれは全てフィクションじゃんとも言えてしまう。いわば「文学」は何でも包括してしまえる魔法のことば、それでいて奥の深い学問なのです。
そんな闇鍋的分野だからこそ、「文学」からしか得難い知見、教養、常識もあります。目下受験勉強に際し、「文学」は役に立たないかもしれませんが、それがふと、科学や数学や歴史に結びついてくることもあるでしょう。文学部の私ですら、現在カール・ピアソンの『科学の文法』を四苦八苦読んでいますし、それにもやはり「読む力」がないと理解ができません。原文を読もうと思ったら、英語ができないといけませんしね。
そんなわけで、将来何をするにも、無駄な勉強などないわけです。
さて、皆さんがだんだん「文学」という分野に興味が出てきたところで、私からおすすめの書物を少しだけご紹介します。どれも読みやすく、しかし専門的でもある良い文章ですので、現代文の勉強だと思って、是非読んでみてください。
特に山本貴光さんはプログラマーの方で戦国無双など手掛けていたり、さらにyoutubeもやっていらっしゃるので、勉強の合間にでも見てみると面白いかもしれません。
・山本貴光『文体の科学』
・ 同 『文学問題(F+f )+』
・ 同 『その悩み、エピクテトスならこう言うね』
・蓼沼正美『超入門!現代文学理論講座』
・養老孟司『身体の文学史』
・北川芙生子『漱石文体見本帳』
・柄谷行人『定本 日本近代文学の起源』
以上です